深夜の森を変なお神輿が静かに進む

ヒーロー誕生

手作り担架で、いざ出陣

原生林の密行

「マイクさん、出発だよっ」と、声をかけたが返事はない。
返事をしないのは、予測していたが一応試してみたのだ。30分くらい前に、移動中に声を出さないようにと、睡眠薬を飲んで貰ったのだ。根曲り竹の担架に毛布を敷き、ベットの毛布の4隅を持ち上げ手作り担架に静かに移した。回廊の中は、担架の幅ぎりぎりだが2人で持ち、静かに進んだ。

祖父は、洞窟内を点検し貴重品や秘密なものは、いつもの場所から移動して戸締りをしながら最後に出てきた。
鉱山の道路に出るまでは、担架の下に肩掛けベルトを回し、4人で持ち上げ前方を2人の若者が邪魔な根曲り竹やブッシュを横に開いて、祖父と健司は後を警戒しながら進んだ。
小川を渡り、鉱山道路に出れば4人が担ぎ棒に、肩を入れお神輿のようになった。前方の警戒に、2人が先行し要所要所で1人だけ伝令に戻り情報を伝える。
担ぎ手も、健司たちも黒っぽい出で立ちなので、目だたないし音もしないので、担架は平坦な道路を安定した状態で移動した。

 

(染井吉野)

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温泉街は未だ眠っていない

根曲がり竹やブッシュの林道に迂回

まるで、闇夜に祭りの神輿にご神体が降臨するような、厳粛な雰囲気である。真夜中の湯治温泉街は、眠りについて静かであるが、用心に越したことはない。担架を温泉の物置の裏に静に降ろし、健太と担ぎの若い1人で付き添う。

和田先生の診療所までの道を点検したが、やはり旅館やお店に明かりが点いている所もあり、中心街を避けた方良さそうだ。脇道からブッシュの細道を通り、オロフレ街道に大きく迂回した安全策をとった。たちばな湖に入る細道まで、1時間30分も掛かったが誰にも会うことはなかった。

和田先生の診療所は、道路から200メートル位入るが、ここは道幅が狭いので4人で担ぐ訳にゆかず、前後を1人づつで持つ形になる。和田診療所は、まだ明かりが点いているので、待っていてくれたようだ。ざわめきが聞こえたのか、先生が玄関から出て
「遅いじゃないか、寝ようかと思っていたところだよ」と、コゴトを言いながら顔は笑っている。手作り担架を腰の高さに持ち替え、6人が声をそろえるように
「こんばんは」と、あいさつした。先生が驚いたよう顔で

「あ、こんばんは、ずいぶん頑丈そうな担架だな」と、見回しながら、マイクの顔を覗いている。先生の後ろから、若い看護婦さんが顔を出して、

「あ~ら、先生日本の人なの?」と、複雑な顔で驚いている。
先生が、登別の国立病院に掛け合って看護婦さんの応援を貰ったようだ。
「いや、それが違うらしいんだな~」と、先生も怪訝な顔をしている。

「そのまま、診察室のベットにのせて呉れないかな」と、指示。若者たちは、声も出さず黙々と作業に専念している。マイクも目を覚まさず、眠っているのでずっしり重い。祖父は、
「担架はバラさずに、その脇のほうに置いてくれ」と指示し、リーダーの若者に封筒を渡した。
「この続きがあるので又頼む、其の時は金治に連絡するので、同じ6人のメンバーで来てくれるように連絡取り合って呉れ」と、伝えた。

素人の初期処置が好印象

祖父は聞こえないふり

先生は、マイクの作業服をはだけながら、
「これは、重症だなー」とつぶやき
「この洋服は切っても良いから、患部を出してくれ」と、看護婦さんに指示
「初期処置が上手くいっているから、良かったな」と、感想を漏らした。骨折部分は、
「写真もないのに完璧に繋がる形だよ、千治さん心得があるな」と言ったが、祖父は聞えないふりをして返事をしない。

「このように、添え木を二重三重にしてくれると動かないので、回復が早いよ」と、また独り言のようにつぶやく。強いライトが、顔にあたってマイクが目を覚まし。

「おおっ」と、声を出してまぶしがっている。今、自分が何処にいるのか、気づかないようで不自由な体を動かそうとしてキョロキョロしている。
「マイクさん、今お医者さんのところに着いたよ」と、話すと

「アイシー・サンキュー」と、ほっとした顔に戻った。
先生が傷の部分や打撲部分を処置しながら、
「後は明日でも大丈夫だが、化膿止めや炎症止めの注射を打つよ」と言いながら、当時としては高価な抗生物質の注射をした。骨折部分は、そのまま添え木を使いながら、包帯で巻いて移動式のベットに移した。

「本当は、このまま国立に入院した方が、処置が早いのだが」と、言いながら受話器を取った。外科医は、和田先生の後任の整形外科の部長で、副院長も兼務しているのは和田先生と全く同じコースを歩んでいた。、昼の間に、予め今晩の対応を相談して置いらしく、深夜までマイクの到着するのを待っていたようだ。

副院長は、今すぐにでも救急車で迎えに行くよと言い出したが、和田先生は患者の事情があるので、夜が明けたら話を決めて電話するから。和田先生の話を、全員が聞いているので明日には方向が出るので、一旦小休止。マイクは、移動式のベットに移され2つしかない、病室に移され祖父と健司は先生の居間で仮眠をとることになった。

夜明けの診療所に不審なノック

祖父が散歩に出かけたが、健太は知らずに寝ていた。先生も、日の出ごろに散歩に出、祖父と二人で散歩してきたらしい。看護婦の松浦さんが、炊事場でお湯を沸かす音で、健太も目を覚ますと
「あらっ、起こしてしまったわね」と、謝っていた。
「健太君は、中学何年生なの」と、言うので、健太は慌てて
「まだ6年生になったばかりです」と、答えた。
「まあ~体がしっかりしているので~何かスポーツやっているの?」

「家の柔道場で、毎日稽古を付けて貰っています」
「そうか、鍛えられているのね、羨ましい環境だわねぇ」と、感心していた。健太にすれば、決して羨ましがられる環境ではないが、
「ありがとうございます」と、丁寧に礼を言った。すると、診療所の裏口に、誰かがきたような気配で続いて、ドアをとんとんとノックする

「おはようございます、お届け物です」と、言う声がする。