小百合ちゃんガレ場で宙づり

ヒーロー誕生

やっと小百合ちゃんの横に付いた

小百合ちゃんの靴先が木の根に掛かっているだけ

健太は、ブッシュに阻まれ顔や首筋にかすり傷を負いながら、やっとの思いでトドマツの脇まで降りザイルをほどいた。
「小百合ちゃん、僕が近づいても体を動かさずに、身体に手が触るまでがんばってよ」と静かに話す。
「わかった~、でも右足が痺れて感覚が無いんだよ」と、意外としっかりした声だ。
「良し、すぐ行くから」と、上に向かい
「おとうさ~ん、ザイルを引いてください」と、ザイルの先端を放した。

健太は、トドマツの幹にスリングを縛り、片方を自分の胴に巻いて結んで、ガレ場に出た。真横では作業が出来ないので、1メートルくらい下の位置から動き出した。

ガレ場は思ったより不安定で、スキー靴は分厚く足場作りが難しい。足元から雪混じりの小石が雪崩のように落ちて行く。スリングが無ければ、健太も落ちて行きそうなガレ場を、5メートル移動するのに2~3分掛かった。

真下に着いたが、スリングの長さも限界だった、両膝を付き両手を下から伸ばす。その小さな動きで、小百合の下にあった岩石がずるっと動き、健太の膝の上で止まった。重さ2~30キロの岩石と30キロ位の小百合ちゃんを抱え状態になった。全く動きがとれない状態だ。
上で見ていた人たちは、上手くキャッチしたと勘違いしたか拍手などした。
しかし動きが無いことで、その深刻な状態が分かり、話し声もなくなって一瞬静寂に

(桜咲く)

 

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60キロくらいが両ひざに

生死の瞬間がこんな身近に

ガレ場を覗き込んでいる人の気配は感じない、時間だけがジリジリと過ぎてゆく。
健太は静かに
「小百合ちゃん、僕の膝に上の石をどかすから、小百合ちゃんは、両手で僕の首にすがりつけるかな?」
「うん、痛いけどやってみる」と、少し動いが左腕が折れているのか不自然に曲がっている。
右手をそろそろ伸ばして、健太の首に巻きつけ身体を持ち上げ、健司の左手が自由になった。周りの小石が、がらがらと落ちる。
健太は、左手を伸ばして岩角に触れた。
左に体を動かそうしたが、2人がそこに留まっているのは健太の両膝の踏ん張りだけ。
スリングの張りは、真横なので利いてい、片膝に比重を掛けたらスリングの長さだけ落下するのは明らかだ,

「小百合ちゃん、今動くと5メートルくらい滑るが、しっかりつかっまてくれよ」
「分かった、動くとき合図して」と、少し声が大きくなり
「大丈夫だよ、僕が押さえるから、じゃやるとき、1・2・3でやるから、いいかい」

「はい」と、言いながら自由な右手に力が入る。
「い~ち・に~ぃのさ~ん」と、健太がが左手で岩石を払うように動かすと、右ひざが浮いて2人ともずるずると落ち始めた。上の人たちから「あ~つ」大きな悲鳴が聞こえたが、健太と小百合は、しっかり抱き合っており、無我夢中だ。

スリングがピ~ンと張って、4メートルくらいの落下で止まった。2人はガレ場とブッシュとガレ場に境目に寄せられた。その後もガレ場の岩石や小石が、絶え間なく落ちてくるが生き返った感じだ。

展望台のサポーターも万歳をする人も居るし、泣いている人も居る。小百合を背負い這うようにして、2本のトドマツまで登り、スリングをほどいた。
「お父さ~ん、ザイルに重しを付け、トドマツめがけて投げて下さい」と、声を掛けブッシュの中に身体を入れて隠れた。
「ザイルを投げるぞ~」の声と同時に、ガラガラと音と岩石の落下が続く。
少し落ち着いたので、
「ザイルを拾いますから~」と、声を掛けながら、四肢で這うように頭をだした。
「まだ、岩石が落ちるから気を付けろ~」1メートル位の枯れ枝が結ばれたザイルが、ガレ場とブッシュの境目に落ちたので、スリングをはずしブッシュの間を10メートルくらい登り、キープする。

「少し浮石があるから、上から落としてみるから、しばらく隠れていろ」と、言うので、
「トドマツの陰に隠れますから、待って下さ~い」と、小百合の居るトドマツまで戻り、
「OKで~す」と、合図した。

生きている実感が出て来た

小百合も手足の怪我を忘れた様に元気になった

「小百合ちゃん、今度はおんぶして登るから、出来るだけ体をそらさないでしがみつく様にしてね」
「はい、今度は楽ちんだね」と、言って少し明るさが戻った。
「そんなに楽ちんではないと、思うよ」と、言いながら、スリングでおんぶした。

浮石に、大きめの石を投げつけているようで、落石はトドマツにもつづけざまに当たり砕けた岩が飛散して恐くなる。
落ちる石が途絶え、
「大体落としたが、ブッシュ側にルート作ったから、準備したら合図してくれ」と、声が掛かった。
「分かりました~」と、スリングの余った部分を胴に巻いて、ザイルをスリングに結んだ。ガレ場を両手両足で這うように体を乗り出し、上の方を見た。

総勢4~50人くらいはいるようだ。
「わ~っ」と喜ぶ声がする。誰も帰らなかったのかと考えながら、
「お願いします」と、片手をあげた。
「よ~し分かった、両手をザイルにかけるだけでいいから、両足を踏ん張って一歩づつ進めば大丈夫だから」と、言うとザイルががピ~ンと張った。
「それではみなさんよろしくお願いします」の、声とともに引かれ始めた。
「小百合ちゃん、スキーはどうしたの」と、気を紛らすように声を掛けた。

「そうだ、スキーをつけ準備していたら、上から降りてきた人たちの声で体を起こすと、スキーが滑るので踏ん張ったら、後ろ側に倒れたような気がしたんだ~気が付いたら、崖をガラガラ落ちていて、何かが足に引かったて止まったんだ、スキーは途中で外れたんだろうか?」
「もう見つからないだろうな~、夏になったら根曲り竹で近寄れないだろうし」

≪でもオヤジの家から近そうだが≫
一歩踏み出すたびに、足元が沈み連鎖して周りのザレ石が落ちて、足元を襲う。
この時は頑丈なスキー靴が有難い。防寒着に、ひざ下にも熊の皮で作った雪行用のカバーを付けているので衝撃が少ない。

「健太も小百合も上を見ないようにしろ!」と、声が掛かった。
やはり、自然は怖い、ヒグマだけじゃない!と思ったとき、なぜか?マイクの顔を浮かんだ。