念願の乱取り

健太の留学

サラシを巻いた山口さん

結構息が合う

山口さんと、お稽古の時が来た。

3月の初対面の時、メタルフレームのメガネに制服でマイクと同じ士官かと思ったが、今日は眼鏡をはずし胸にサラシを巻いて、さらに凛々しく見える。

山口さんが道着に着替えて、フロントのジェシー軍曹に挨拶に行くと
「お~山口夫人見違えましたっ」と、ジェシーさんがフロアに出てきて、両手を出して握手
「ジェシー軍曹、健太くんが居る間に何回かお借りしますからお願いしますね」と挨拶する。

最初は、2人で座禅をしながら呼吸を整える、本来なら健太は瞑想に入るが今日はパス。
体をゴロゴロ転がし、立ち位置で背中合わせで相互に前かがみになって、背筋を延ばしたり柔軟体操を30分くらい続ける、

少し汗ばんできたので、一息入れて『受け身』を前転後転などドタバタやって居ると、人の気配が多くなる。しかし2人は気にする風もなく、投げられた訳でもないのに空中で回転するような速い受け身を続ける。これも30分以上時間をかける。

(額縁アジサイ)

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礼に始まって礼で終わる

ジェシーさんも感動

2人が、向き合って正座し礼をして、初めて『乱取り』に入る、相互に声を出さずに攻守を変えながら、30分くらいやって、正座をして礼をして終わる。
ここで初めて、口をきく。
「健太くんは、2段以上の実力ね」と、山口さんがタオルで顔を拭きながら笑顔で話す。
そこにジェシーさんが近づき、紙のコップを差出しながら
「柔道ってあんなに激しくて、途切れることなく続くのですか?」と、不思議な顔で聞く。

「センキュー、ある程度続けた人は、規定通り動くので流れるように続きますね」と、山口さんがコップを受け取りながら答える。
健太もコップを受け取ると、コーラだった。
「有難うございます、試合の場合は、10秒もしないで勝負がつくこともありますし、10分も20分も続けても決着が付かないことも有りますね」と、山口さんの顔を見ると
「そうですね、高段者になると相手の仕掛けが分かるので、その前に少しだけ動きながら牽制し合うので、勝負が付かない事が多いですね」山口さんが、キチンとホローしてくれた。

「お互いに、袖とか襟とかを掴んでいるので、相互に呼吸を感じているので、肉体的よりも心理戦のような時も有りますね」
「な~るほど、こんなに汗をかいても心理戦ですか、奥が深いですね、私も一般大学から入隊したので、初期訓練の頃は、肉体的にも厳しいが、教官の目を見て、目を逸らしたら負けになるような、心理戦を体験しましたから、分かりますね」
「じゃ~もうすぐマスターだね」と、山口さんが冗談を言う。

ジェシーさんの独り言

ウンチクのある話

「最初の訓練で、肩の脱臼をしてこのスポーツセンターでリハビリ的な処遇ですから、可なりハードルが高くなりましたね」
「体を動かす商売は、ケガが付きモノですからね、いかにそこからジャンプするか、体調もそうですが気の持ち方も、キーポイントかもね」
「あれっ山口さんって、お医者さんですか?」と、ジェシー軍曹が興味を示す。
「渡米して、2年ほどスポーツ医学を専攻したんです、そこでスポーツにも心理学が適応することが分かりました」

「そうですね、体調が回復しても気持ちの上で回復しなければ、回復とは言えないですよね、私は此処の設備で、復調したと思ったのですが~気持ちが伴わなければ、無理なわけね」
「ジェシーもある程度専門家のようですから、余計なことを言っちゃたみたいだけど、真剣に取り組めば結果は後から付いてくる話が有るでしょう、あれっ健太くん忘れていた」と、健太の顔を見て山口さんが、慌てた。
「山口さんもジェシーさんも、僕の事は大丈夫ですよ、お2人のお話を聞いていると、すごく参考になる部分が有りました」

「それは、ヒノハラくん皮肉でしょう、馬鹿な話を延々と遣っているわぁ~と、考えていたでしょう」と、ジェシーさんが真顔で健太を見つめる。
「違いますよ、山口さんが言った『組み手を通じて相手の心を読む』話は、柔道では最も重要なポイントになるんです」と、健太も真剣に答える。

「ジェシーさん、健太くんは年齢で判断できないほど大人ですから、私たちのお喋りもしっかりとくみ取って理解する人なんです」
「ごめんなさいね、ヒノハラくんとお会いするのは2回目ですが、女のたわごとを聞かせてしまったわね」と、ジェシー軍曹は健太をハグしながら、涙を滲ませていた。
「ジェシー軍曹、今日は有意義な日だったは、また遊びに来ても良いかしら」と、山口さんもホッとした雰囲気だ。ジェシーさんは、赤い顔で大きくうなずく。