マイクの葬送-4

健太の留学

輸血で延命

触感で意思の疎通

マイクは、確かに意識が戻ったようだ。うつろな眼差しで、吸引マスクに覆われた顔を少し左右に動かしたようだが、状況を認識できていない。お母さんが「マイクッ 分かる?➚」と、声をかけたが、返事が無い。医師が、「お家族が来ています、分かりますか?」と、声を掛けるが 呼吸器に覆われた唇は動かない!

「肺の内部に出血が続いているので、声が出にくいかもしれませんね」「サタケ少尉、分かったら手を握り返してくれるかい」と声をかけながら、空いている左手を握った。「あ~分かって居るね、お家族に代わるから、今のように握って返事をして」「かすかに反応しますから、手を握ってやってください」と、お母さんの顔をみて促した。

 

(しらぎく)

 

おかぁさんを認識

アーウィンから中佐も

「マイク、さっき声を掛けたが分かった?」と、静かに語りかけた。お母さんが「うん うん」とうなずきながら、涙声で手を握り返していた。こうして、ケン多を含む家族4人とヘンリー少尉が交互に、握手のような形で変則的な意思の疎通が叶った。

ケンタは最後だったが、マイクはケンタの手を握ったまま中々離さず、悔し涙なのか目じりが潤んできた。「マイク、またカルルスに行こうね」と、言いながら、両手でマイクの左手を包みながらしばらく握ってから離れた。医師は、「貫通部分を縫合しますが、かなり難しい処置になるので覚悟して居て下さい」と、厳しい顔で戻った。

手術室に向かう寸前に、アーウインのリチャード中佐が到着して、マイクに何か語りかけていた。同じように手を握りながら、少し長めに話ながらリチャードも、涙を堪えながら手を握っていた。後で聞いたのだが、このような家族の面会は異例で、超が付くほどの異例な面会らしい。ケンタが、特待で留学した経緯にも関係する、超法規的な面会だったらしい。

控室で2時間ほど待機していると「手術は終了しました、集中治療室に入りますが今日はお家族は側には付けませんので、ここで待機しても良いですが、ホテルでお待ちなった方が良いかもしれません」と、担当の看護婦が申し訳なそうな顔で話す。

リチャード中佐もヘンリーも帰らずに、ホテルまで同行して家族の面倒を見てくれた。カルルスや千歳の話をしながら、部隊の中で事件が発生したことは残念で仕方ないと、何度も何度もあやまり、戦友じゃなく友人として、こんな事件に遭わしたのが悔しくてやりきれない感じだ。お父さんやリチャードは千歳やオロフレの事故に付いて聞きながら、静かな時間を過ごしていた。

夜の間にマイクは逝った

ロチェスターに戻る

その日の夕方、病院に顔を出したが面会は叶わず、ホテルで待機し、中佐はその足でアーウインに戻った。ヘンリー少尉は、特命なのかホテルと病院の連絡をやりながら、部隊には戻らなかった。その夜、マイクは大きく咳き込み悶えるよう状態になり、看護婦が処置をしながら医師をコールしたが、間に合わないくらいの急変だった。家族が到着したときは、衣類も替えて体も拭き清められ、苦しんだ割には穏やかな顔に戻っていた。

軍の方針が伝えられ、戦死扱いで部隊内のチャペルで葬儀を行い、家族と一緒に郷里戻って埋葬することになった。昨日、お父さんとリチャード中佐、ヘンリー少尉が話し合い最悪の事態を想定していたらしい。その夜の間に、ヘンリー少尉が小型の軍用機でロチェスターに先行し、関係機関や友人、学校に手配することで出発した。

翌日の午後チャペルで、部隊の関係者と家族だけのしめやかな葬儀が行われた。おかあさんは、昨日から呆然として病気のような感じだが、いつもリチャードが側に付いて介抱している。その晩、マイクと一緒に居たいと言うお母さんをみんなでホテルまで付き添うながら、落ち着かない夜を過ごした。

翌朝は早めの移動開始で、部隊の葬儀隊の儀仗兵が6人で星条旗で覆われた棺を抱え、霊柩車に移動お父さんが助手席に乗り、ケンジたちは別の車でグレー陸軍飛行場に向かった。空港では葬送の車両から棺を移動する間、周辺の兵士は敬礼の姿勢を崩さず、見送ってくれた。

飛行機は、中型のジェット機の最新型で50席くらいあるが、マイクの席は6席くらいの座席を外しバックルの付いたスリングが装着している。6時間くらいの飛行でロチェスターの上空に着いた。ロチェスター国際空港には、白い霊柩車が飛行機脇に付けられ、儀仗兵の6人が静かに静かに抱え降ろし、乗り換えた。

ホープヒルズに帰宅

ニックとクワィッも

関係の車両も近くに来ているので、家族や軍の関係者も乗り込み、手際よく進む。葬送の車列は、ホープヒルズのサタケ家の前に停まった。

ケンタが、出発前にお父さんたちと相談して、クワィッをニックに面倒を見るように頼んでいた、今日は、先行したヘンリー少尉とニックとクワィッが玄関の脇に緊張した顔で迎えてくれた。クワィッも、今日の雰囲気が察知したのか、吠えもせず静かに「待て」の姿勢を保っている。

霊柩車だけが、敷地内に入り同行している儀仗兵が、静かな行動だがリズムよく棺を抱きかかえるように居間まで移動、用意されていた架台の上に静かに安置した。架台の脇のテーブルには、マイクの祖父夫妻の写真が飾られ、孫の帰還を静かに見守っているようだ。

サタケの家族4人は、隣近所の知り合いに挨拶も出来ず、自宅滞在時間は10分か15分くらいしかなく、着替えるのがやっとの時間で、慌ただしくマイクと共に埋葬地の墓地に向かった。墓地に到着して驚いた。ヘンリーがどんな連絡をしたのか知らないが、大勢の市民が参列しマイクの同級生や友人、ケンジのクラスメート、柔道部の部員、ハイスクールやジュニアの校長、ブラウン会長の顔も有った。

儀仗兵が、静かなテンポで棺を抱えながら埋葬予定地に移動し架台に安置、儀仗隊長に会釈する。儀仗隊長が、霊園の礼拝堂の牧師に敬礼して、葬儀の儀式が始まった。牧師が、経典を朗読し市の代表者が一言弔辞を述べ、タダシお父さんが返礼した。儀仗隊長が、少し離れて待機していた射撃手にサインをした。

7人の射撃手は、斜め上方に向けて3回引き金をひき21発の弔砲を撃った。射撃手の脇に待機していた、ラッパ手が澄んだ静かな音色で「星条旗よ永遠になれ」朗々と吹きはじめた。続けて、柔道部のケイートがリーダーで編成したコーラスのユニットが、ラッパの音に合して国家の斉唱を始めた。

軍隊式の葬送式

ケィートマネージャたちの斉唱

さらにラッパ手は、讃美歌の「アメージング グレース」を吹きはじめ、ちらっとケイートの方に視線を投げかけた。ケイートたちはゆったりとしたテンポで歌い始め、次第にラッパの方が譲ってくれて、若い歌声が悲しみを超えるように流れる。最後に6人の儀仗兵が、棺の6点のスリングを持ち、静かに降ろし始めた。着地し牧師がお祈りをして、家族が順次一握りの土を棺の上に撒いて、すべてのソレムニティが終了した。

マイクは逝ってしまった。

マイクが、あっけなく逝ってしまいケンタも家族も途方にくれた日々が流れた。スタンフォードのリチャードも弁護士の資格を得るには、大学院の研修期間が残っているので、両親の面倒をケンジに託して戻った。ケンタにしても、大事な兄と言うか掛け替えのないモノを失い、通学も空しかった。唯一気が紛れるのが柔道の稽古だった。カルルス時代、父を鉱山の事故で亡くしたときは、6歳の子供ながら悲しみにくれたが、母までが病んでしまい、そんな時、祖父が何も言わず静かに抱きしめてくれた。

今は、その祖父も遠く離れている。マイクと一緒にカルルスへ行く約束も、夢と消え去り祖父にマイクのちょう報をどんな形で書くか思案していた。そんな時、アーウインのリチャード中佐から手紙が届き、ケンタの処遇が留学生から、アメリカ人になる話だった。お父さんと一緒に、ロチェスターの市役所で手続きするようにと言う知らせだった。

マイクがリチャード中佐に頼んでいたらしい。

ケンタは、少し戸惑いが有ったがお父さんに手紙を渡し、事情を説明した。お父さんもお母さんも大喜びで、「本当の息子になったんだね」肩を抱きしめながら涙を流して喜んでくれた。ケンタには、何か吹っ切れない部分があったが、リチャードとの約束を守ろうと考えを新たにした。