真夏の柔道特訓(サマー①)

健太の留学

今年はデトロイト

ジュニアは二年制を選択

ケンタは、秋にはハイスクールに進級する。マイクに先立たれ、当初は集中できなかったが、5~6歳ごろから慣れ親しんだ道場の畳の感触は、気持ちを落ち着かせる。ニックもケンタの気持ちを察してか、時間の許す限り道場に誘ってくれる。昨年の秋、シカゴで優勝した柔道大会が、今年はデトロイトで開催することになって居るらしい。前田先生やハイスクールの先生方は、ケンタを早くハイスクールに「飛び級」で正選手として出場させたいらしい~

ニックも2年制を選択しているので、同じタイミングで進級する予定なので、進学直後の大会になる。「ケンタは正選手の内諾が有ったんだろう」と、ニックがカマを掛けてくる。「まだ進級していないのに、話なんかする段階じゃないよ」「そうかなぁ先輩たちは、ケンタは当然正選手だよって言ってたよ」「その話は、9月以降だよ」と、うわさ話に乗らない。

 

(コットンフラワー)

ハイスクールは上位入賞を目論む

ニックも段・」級試験に関心

ニックは自分に関連する、大事な昇段昇級試験が有ることを言いたかったようだ。「ケンタも初めての試験だろう?心配じゃないのか?」「試験は心配してもどうにもならないよ、当日まで基本を丁寧に屈り返すしか突破出来ないらしいよ」「試験は、どんなことやるのかなぁ」と、心配顔だ。「各地域で、違うらしいが1級から4段くらいまでは、5名くらいの乱取りが中心らしいね」と、ケンタの知って居る範囲で話す「審査する人は、周りで状況を見ながら採点するらしいよ、その後経験日数などを考慮して、級・段が決まるらしいよ」と、日本の基準で話す「ニックも、このシーズンしっかり練習すれば初段を取れるかもしれないね」と、ニックのレベルを考慮して希望を持たす「それは無理だよ、ケンタはいきなり二段になるだろうな~」と、ニックが遠くに目をやった。

「それは、無理だよ去年優勝しない方が、目立たなくて良かったんだが」「なんで、目立った方が上級にいけるんじゃないの」と、ニックらしい意見。「どの世界も、エコヒイキやシガラミなどがあるから、予測はむりだよ」「そんなもんかな~」と、二人は話を始めると終わらないが、今は夏になったばかりで、二人とも徒歩で帰宅することが多い。

夏の柔道は、カルルスも暑いので朝夕の基礎練習だけだったが、学生の団体戦を目指していると、かなりキツイものになる。前田先生も、アメリカに転勤以来米国内の大会に出場して、数えきれなほどの優勝回数を重ねてきた。しかし、最近ハイスクールの柔道部をあずかり、ハイスクールの指導は企業のクラブとは覇気が違うと言うか、エネルギッシュで部長の立場いうと頼もしいしが、どこかで息抜きも考えないと……

秋の大会の選手は発表していないが、5名の選手の候補は自分の中では決めていた、やはりヒノハラの扱いが微妙で悩みの一つである。まだ、ハイスクールに進級していないので、サマーホリディー中の発表が問題になってしまう。ハイスクールの、ウイリス校長に相談すると、う~んと唸って「どうだろう、飛び級の扱いは無いかな?」と、自分で言い出して、「サマーホリディーじゃ手の打ちようがないか・・・」と、校長も思案顔。「6月中に真剣に考えるべきでしたね」前田先生も、困惑している。「ジュニアのリチャード君に相談してみるか?」

前田先生も、デトロイトの開催は前から認識していたが、選手の構成まで想定していないので、いま、学生たちの熱気で後悔していた。7月の末、サマースクール(夏季補習授業)も目途がついたとき、ハイスクールのコーチやキャプテン・マネージャ・柔道部出身のOB・学校の事務長に内容は言わずに、柔道部の連絡会議の開催を通知していた。

練習は量から質へ

日本式合宿を採用

「8月5日から10日間くらいの柔道部合宿で、秋の大会に備えたいのだが~、どうだろうか?」と切り出した。後のホワイトボードに、「Summer practice⇒Summer camp」と書いた。殆どが在住のアメリカ人だが、夏休みはバカンスと決めているらしく、ざわついている。
「合宿ですか、どこか山荘か保養地がありますかね」とか~「湖畔なら涼しいじゃないか」とか~「それは、良いですね、楽しみね」と、マネージャを兼ねているケイートさんは、まるで合宿が旅行にでも行く感じで何か勘違いしている。

「いや特別、こから動くことは無いよ、練習の量から質に切り替えるのです」と、前田先生は続ける。「この柔道場の周りで、練習も食事も、寝ることも全部賄うんだよ」「えっ 学校の敷地内ですか?」と、一斉に大きな声が飛び交った。「大丈夫だよ、夏の季節だしキッチンの設備もあるし、寝るのはこの畳の上で十分だよ」「先生、朝暗いうちから練習ですか?」と、キャプテンが心配そうな顔になる

「そんな無茶の事はしないよ、むしろ『座禅』なんか良いのじゃないかな?」「実は、柔道も他のスポーツも同じだが、夏の練習は自宅から通学しながら練習を積み重ねるのだが、2週間か3週間くらい集中して柔道に向き合う時間を造りたいのです」

「個人的にレベルを上げることも大事だが、団体戦はチームワークが重要だと考えて居るのです、皆さんは、一般部員では無いので心得て居ると想いますが、武道は個人戦のように見えますが、団体戦は5人なり6人のチームだったら、試合中の選手は一人だが残りの選手も気持ちを一つにして臨まなければ勝てません」

「体を動かし汗を流す練習も大事ですが、武道では心も伴なわなければ上達しないと云われてきました、このことは部員にも直接言いますが、皆さんもその辺を考え乍ら参加してほしいのです」「最近、やっと正座が出来るようになりましたが、あれはきついですよ下級生は半分も出来ていないようですよ」と、キャプテンが言い出した。卒業生のカレッジで柔道を続けている、スミスが「僕は、見ていないのですが、ジュニアのヒノハラ君が入門の時、練習前に「座禅」を組んで瞑想していたのを、部員が見てすごく感銘を受けたらしいですよ」

関係者合同会議

提案通り開催で合意

「あぁ~そうだったね、あの時私も見ていたが、ヒノハラ君は6才の頃から道場で遊びながら育ったから、自然に身に付いているのです」「さっきの話に戻るが、シーズンごとに合宿などで、チームワークや技術的な部分の特訓で大会に備える習慣があるんだよ、合衆国のプロ野球も、シーズン前にチームメートが温暖な地方で合同練習しているだろう、あれのミニチュア版だよ」

「柔道部は、画期的で斬新なアイディアが次々出るね、これは前田さんの薫陶なんだろうな、部員もOBも合衆国らしい解釈で、いい雰囲気だね」と、事務長が初めて発言した。「事務長有難うございます、前田先生の指導方法は柔道本質から外れずに、それでアメリカナイズされた部分も充分取り入れて頂いています、私がカレッジでも柔道を続けていますが、この柔道場の方が居心地がいいんです」と、スミスが言う。

事務長も「その話よく分かるね、私も部員になりたいよ」と、ジョークで笑わせる。「それでは、開催の方向でプロジェクトを組み、スタッフを決めて動きましょうか・」と、スミスがまとめた。「そうだね、ウイリス校長からは内諾を得ているから、後は父兄会に話を通して柔道部の父兄会のバックアップをお願いしますかね」

「日本では、食事の用意も生徒が遣るんだが、ホーポヒルズでは無理かもしれないね」「いや、全部父兄会に任せるのじゃなくて、生徒が出来る範囲の事は自分たちでやれば、意義があるんじゃないでしょうか」と、キャプテンが貴重な意見を発言した。「それでは、プロジェクトのスタッフを決めて具体的な部分を進めましょう」

「一番大事な、予算は校長と話して食費や消耗品はある程度賄えると思うので、寝具などの具体的なものは、担当を決めましょうか?」学校内の手続きや、父兄会の関係は事務長と前田先生が担当し、OBやキャプテン・サブキャプテン・コーチ・マネージャーなどが、担当者に指名された。

「このプロジェクトは、昨年の柔道部の入賞とヒノハラ君の個人優勝が、ホープヒルズハイスクール創立以来のイベントになります、みなさんのご協力が大きな力になると思います、頑張りましょう」と事務長も前向きな発言で決まった。

「秋の大会に向けてなお一層の練習が必要です、10日間の合宿だけではもの足りないでしょうが、中身の濃い練習で頑張りましょう、合宿前に大会出場候補を発表しますので、よろしくお願いします」と、前田先生がお礼をし全員が立ち拍手で閉会した。